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東京高等裁判所 平成5年(う)1345号 判決 1994年8月17日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中二五〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人小林美智子、同中園繁克共同作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。

第一  事実誤認をいう控訴趣意について

所論は、被告人は原判示の犯行には全く関与していないのであり、被告人の関与を肯認した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるというのである。

しかしながら、原審記録及び証拠物をつぶさに検討するに、原判決挙示の関係各証拠を総合すれば、原判決の事実は、所論指摘の点を含めて、そのすべてを優に肯認することができるといわなければならない。すなわち、Aは、原審の出張尋問において、被告人から誘われて上京し、被告人から変造されたパッキーカードを受取り、これを使つてひんぱんにパチンコをしていたこと、平成三年一〇月に入ると、被告人から被告人が保管していた変造用機械を使つてパッキーカードを変造する方法を教えられたので、じ後は自らの手で右変造用機械を使つてパッキーカードを変造し、引きつづきこれを使つてパチンコをしていたこと、このころには、マンション「甲野F」一〇一号室に自分とともに居住していた者にもパッキーカードの変造をしてやり、被告人の指示で、一枚につき三〇〇円の手数料をとつていたが、被告人との約束では、そのうち六〇円を自分の収入としてとり、残りの二四〇円を被告人に渡すことになつていたこと、当初、右「甲野F」一〇一号室に置いてあつた変造用機械は、その後間もなく「乙山」一二五号室に移されたが、右機械はしばしば変造能力が衰えて修理が必要となり、その都度被告人に連絡をとつてその修理をしてもらつていたこと、同年一一月の初旬から中旬ころ、池袋駅東口で被告人からBを紹介されたが、その際被告人によりCという名で右Bに紹介され、さらに被告人が右Bに対してこれからはこのCがパッキーカードの受け渡しをするからという話をしたので、じ後自分が右BやD、Eらに渡すカードの変造を担当するようになつたこと、この場合も、右Bらからも一枚につき三〇〇円の手数料をもらうことになつており、その分配も従前どおり自分が六〇円をとり、被告人に二四〇円を渡す話になつていたこと、本件犯行当日も、Eからの依頼でパッキーカードの変造をしてやり、喫茶店「丙川」でEに交付したことなどをきわめて詳細かつ明確に供述しているところ、同人のこれらの供述は、自己矛盾も全くない、ごく自然なものであつて、その後の事実関係の流れともよく符合しており、弁護人の入念な反対尋問によつても、その信用性に疑いをさしはさむべき事情がいささかもあらわれていないことなどに徴し、それ自体としても、十分に信用性を肯認できるものと認められるが、同人のこれらの供述は、Bの原審における出張尋問での供述、F及Gの原審公判廷における各供述、E及びHの検察官に対する各供述(これらの各供述も、Aの供述と同様、客観的事実関係ともよく符合した、ごく自然なものであつて、いずれも大筋においては、その信用性は十分に肯認できるものと認められる。)その他の関係証拠とも主要部分については完全に符合していることにより、さらにその信用性が補強され、担保されるにいたつているのであり、これらの事情からすると、その信用性には疑いをさしはさむ余地は全くないものと認められるのである。そして、Aのこの供述を中心とし、Bら右に掲げるその余の関係者の各供述を総合するとき、被告人がパッキーカード変造用の機械を製作することにより大がかりなパッキーカード変造を企て、GやHから多額の資金の提供を受けてFに右機械の製作を請け負わせこれを完成させるとともに、Aをも引き込んで、じ後同人とともに右機械を利用してパッキーカードの変造をくりかえし、Eらにこれを交付して同人らにおいてパチンコ店でひんぱんにこれを使用していたこと、本件もこうした被告人とAとの継続的な一連の犯行の一環として敢行されたものに他ならないことは優に認定できるといわなければならない。

弁護人らは、原審証人Aの証言について、(1)Aは、捜査段階において、己の刑事責任を軽減せんがために、本件とは全く無関係の被告人を首謀者に仕立て上げる虚構の供述をし、己の有罪判決が確定した後である原審公判廷での証言の際にも、今更捜査段階の供述を変更するわけにも行かず、これをそのまま踏襲する供述をくりかえしたものであるのに、原判決は、Aが、原審公判廷での証言当時、本件についてすでに有罪判決を受けて右判決が確定しており、これによりAには己の刑事責任を軽減せんがために、ことさら虚偽の供述をすべき事情も完全に消滅していたのであるから、Aの原審証言は信用してよい旨説示しているのであり、右説示は、一たん虚偽の供述をした者がその後再び同一事項についての供述を求められた場合における従前の供述内容がその供述者に及ぼす心理的拘束力を無視したものであり、承服できない、(2)Fの原審証言によれば、Aが、パッキーカードを変造する機械を使用したと供述している時期には、未だその機械は完成していないのであり、Aは、パッキーカードを変造する機械に関し、その構造、製作費、故障の原因などにつき被告人に一度も尋ねたことはなく、このような事項には関心が全くなかつた旨供述しているのであるが、甚だ危険な、パッキーカードの変造に継続的にたずさわつていたAの立場からすれば、このような事項に強い関心、興味を抱くのが当然であつて、Aの右供述はまことに不自然であるといわざるをえないこと、Aは、また、右機械を最後に見たのは、平成四年三月一九日であり、その後は見ていないと供述しており、この供述も不自然、不合理なものといわざるをえないこと、Aが使用したという機械が押収されておらず、今なおその所在が全くわからない状況にあることなどを併せ考えるとき、Aの原審公判廷における供述が虚構のものに他ならないことは明白であるといわなければならない、(3)Aは、当時被告人に対して約六二〇万円ほどの債権を有していた旨供述するのであるが、被告人が当時Aに負つていた債務は、弁護士費用の六〇万円と手形不渡分の七五万円を合わせた一三五万円だけであり、その他に、被告人に対して一回あたり二万円ないし五万円を何回にもわたつて貸し付けた小口の貸金が総計で約四八五万円ほどあつた旨のAの供述は虚偽のものである、右Aの供述は、平成二年四月ころから一〇月ころまでのごく短期間に、一〇〇回近くにもわたり、債務残額が巨額なものにふくらんでゆくのを全く意に介することなく、一方的に貸し続けたというのであるが、当時被告人とAがいかに親密な間柄であつたとはいえ、まことに不合理、不自然といわざるをえないものである。(4)Aは、被告人に対してこの貸金の返済を求めるべく連絡をとつたところ、被告人から一日三万円位になる仕事があるといわれたので、右貸金の回収と生活費等の捻出を企図して平成三年九月末ころ上京し、じ来被告人の指示で被告人に代わつてパッキーカードの変造とその手数料の集金を担当するようになつた旨供述するのであるが、一日三万円にもなるという、うまい話がどこにでもころがつているわけでもないのに、その仕事の内容を具体的に確認することもないまま、福井での生活や仕事を放棄して上京するなどということはまことに不自然であり、また、Aが当時被告人に対してこのような多額の債権を有するという強い立場にあつたとすれば、右のようにAが被告人にあごで使われるような形で被告人の指揮監督のもとにパッキーカード変造等に従事することを甘んじて引受けたということも甚だ不自然な成行きというべきであるし、そもそもAが被告人に対してこのような多額の債権を有するほど経済的に余裕のある状況にあつたとすれば、Aが、右手数料のうち一枚あたり六〇円というわずかの金を得るために狂奔するということも到底信用できないところというべきであり、これらの点からしても、Aの原審証言が虚構に満ちたものであることは明白である、などとして、その信用性を論難する。

まず、(1)の主張についていえば、Aの証言は、前述したように、不合理、不自然な点が全くなく、迫真性に富んだリアルなものというべく、所論のような経緯から捜査段階の虚偽の供述にひきずられたとの疑いをさしはさむべき曖昧さ、上すべりした感じを毫も含んでいないことは明らかであるから、右主張は採用できない。

次に、(2)の主張についていえば、Gが、平成三年九月下旬から一〇月初旬にかけて機械が完成した旨Aの証言に沿う供述をしていること、Hの検察官に対する供述によると、同人も、平成三年秋以降の時期に被告人から「実際に試作品の機械で変造したパッキーカードを仲間のAという人間らに使わせて実験をしている。」旨聞いたと述べていることなどを総合するとき、Aの証言とFの証言との間の機械の完成時期に関する所論指摘の供述のくいちがいは、Aの証言の方が正確であり、Fの証言は、当時同人が同種の機械を多数製作し、これらを被告人の手を経て暴力団関係者に売却しており、そのため同人にはこれらの機械に関する記憶とAの手許にきた機械に関する記憶との混乱があると推認されること、当時の被告人やFの気持からすると、暴力団関係者への機械の売却による利得の確保が主な狙いであつて、Aに渡した機械によつてパッキーカードを変造することによる利得の確保はごく副次的なものであり、したがつて、Fらにおいては、Aに渡した機械は、暴力団関係者に引渡す機械を完成させる過程での試作品であるとの意識があつたこと(この点は、いずれも、F、Gの各証言から明らかである。)などの事情から、Aに機械を渡した時点より遅い暴力団関係者に引渡した機械の完成時期がより強く脳裡にきざみこまれていたであろうと推認させることなどに照らして、機械の完成した時期に関するかぎり不正確な記憶にもとづき供述したものと認められるのであるから、この点に関するAの証言とFの証言との間のくいちがいは、Aの証言の信用性をいささかも減殺するものではないことは明らかである。Aが平成四年三月一九日より後にはこの機械を見ていないと供述していることやその機械が今なお所在不明となつていることも、被告人がFの許からも製造中の機械や部品を引き揚げていることに徴すれば警察の捜査が開始されたことを察知した被告人あるいはその意を受けた第三者がこれを隠匿したために他ならないと強く推認されるのであるから、これまた、Aの証言の信用性を損なうものとは到底いえない。また、当時、Aが、被告人のいわば配下のような形でパッキーカードの変造に従事していたにすぎず、この変造の機械の開発のために資金を提供していたわけでもない以上、所論のような機械の構造や製作費などに全く関心を持たなかつたということも、それなりに了解できるところというべきであつて、異とするに足りないといわなければならない。(2)の主張はすべて排斥を免れない。

(3)の主張についていえば、当時被告人が刑事事件の影響などで営業不振となり手元不如意の状況にあつたことや、従前Aが被告人から経済的な恩義を受けたことがあつたこと(いずれも、被告人自身が認めるところである。)などの事情を総合するとき、Aが供述するように、比較的短い期間に、Aから被告人に小口の融資が頻繁に行われ、その残額がかなりの金額にふくらんだとしても、不合理でも不自然でもないといわなければならず、Aの立場として、原審公判廷において、この点につき、ことさら虚偽の供述をしなければならない理由も必要も全くないことを併せ考えるとき、同人のこの点に関する供述も全面的に信用できるものと認められるのであるから、右主張も採用できない。

次に、(4)の主張について按ずるに、被告人は、かつて福井において、多数の従業員を抱えてテレビゲーム機器の製造販売の事業を手広く営んでいたことがあり、このことはAにおいても知悉していたところであることに徴すれば、Aが被告人の一日三万円云云の話をそのまま信用して、その仕事の内容を具体的に確かめなかつたことは、それなりに理解できるところというべく、不自然とはいえないし、また、当時のAの経済状況やAが被告人にかなりまとまつた貸金を有していたことをも併せ考えるとき、Aが直ちに上京して被告人のもとに赴いたということも、これまた、ごく自然な成り行きというべきである。そして、Aが、被告人の配下のような形でパッキーカードの変造に従事するにいたつた点も、Aが、パッキーカード変造の機械製作にも全く関与しておらず何らの資金提供もしていないことや、右機械の操作やこれによつて変造したパッキーカードを使用する場合の注意事項などについても、Aには何らの予備知識もなく、そのすべてを被告人に教えてもらう他はなかつたことなどにかんがみるとき、被告人とAとの力関係が右のようなものになつたということは、所論指摘のような被告人とAとの債権債務関係を考慮に入れても、むしろ当然の成り行きといわざるをえない。また、Aが被告人からパッキーカードの変造を一枚あたり六〇円という少額の手数料で請負つていた点も、当時のAの経済状況や、Aには、右手数料の他に、自らも変造したパッキーカードを使つてパチンコで稼ぐという方法で右手数料収入を大幅に上回る利得を継続的に得ていたことなどに徴するとき、これまた、いささかも不自然、不合理とはいえないことはいうまでもない。(4)の主張もすべて採用できない。

なお、Aは、被告人にBをはじめて紹介され、被告人がじ後Aにパッキーカードの受け渡しをさせる旨Bに申し向けたのは池袋駅東口であり、その際DやEとは会つていない旨供述しているところ、B、D、Eらは、BがAとはじめて会つたのは池袋のロイヤルホテルであり、その際DとEも同席していた旨これと異なる供述をしている点について付言するに、場所の点は、Eが別の機会にAと池袋駅東口で会つたことがある旨供述していること(Eの検察官に対する平成四年四月二三日付供述調書謄本二通)などに照らすと、Aが別の機会のことと混同して記憶しているものと理解されるのであり、また、当日Aが会つたのがB一人であつたかどうかという点も、同じくEの供述によれば、当日はAと被告人がまずB一人と会い、その後Aが一たん外出し、二、三〇分後に戻つた際に、さらにAと被告人がB、D、Eの三人と会つていることが窺われる(Eの検察官に対する平成四年四月六日付供述調書謄本二通)のであるから、このような経緯があつたためにAが当日会つたのはB一人であつたと記憶しているものと思料されるのであり、いずれもAの記憶違いに他ならないと認められるのであるが、右は枝葉末節の点に関する記憶違いにすぎず、Aの証言全体の信用性を減殺するものとは到底いえない。

弁護人らは、さらに、A以外の関係者らの供述等について、(1)Bの原審証言は、平成二年に被告人に毛皮を売つたが、その際被告人から受け取つた手形三枚が不渡りとなり、約一五〇〇万円の右代金が未収となつている旨の供述部分が甚だあいまいで不自然であること、平成三年一一月に被告人の知合いと称する男からパッキーカードを変造する面白い機械が出来たという連絡を受けたので上京し、その男と会い、その男からパッキーカード変造の方法につき説明を受けた旨の供述も、その男の名前も顔も知らないという不合理、不自然きわまりないものであつて、到底信用できないものというべきであること、平成三年一一月一四日から四日間上京していた際に被告人と会つた旨の供述も、そのときの顔ぶれ、被告人の発言内容などの点で、A、D及びEの各供述との間にくいちがいがあつて信用できないというべきであることなどに徴し、全面的に信用性に欠けるものであり、到底Aの証言を補強するに足りるものではない、(2)Dの証言も、被告人の本件への関与を否定しているものであり、これまた、Aの証言を補強するに足りるものではない、(3)Eの検察官に対する供述は、同人が、原審公判廷において、記憶にないこと、記憶があいまいなことも検察官の誘導に迎合して記憶があるように述べたものである旨供述していることからして信用できないものであることは明らかであり、同人の原審証言こそ信用できるものであるが、その内容も被告人の関与を否定するものであつて、Aの証言を補強するものとは到底いえない、(4)Hの検察官に対する供述も、同人が見てもいないパッキーカード変造の機械製作のために八一〇万円もの大金を投ずる筈がなく、この金は、同人が原審公判廷で供述しているように、普通の娯楽機器の製造販売のためになされた投資とみるべきであることや、同人自身も捜査段階においては被疑者として取調べを受けていた者であることからして、己に対する処罰を回避し、あるいは軽減せんがために取調べ検察官の機嫌をそこねないよう迎合して虚偽の供述をしたと推認されることなどから信用できないものというべきであり、これに反し、同人の原審公判廷での証言は、同人が被告人に対して多額の貸金を有していて被告人に遠慮しなければならない理由も全くないことなどに徴すれば、検察官が主張するように、同人が被告人に遠慮してことさらに被告人に有利に事実関係を歪曲して供述したものとは到底認めがたく、この証言こそ信用できるものというべきであるところ、この証言も、被告人と本件犯行との結びつきを証明するに足りるものではないことは明らかである、(5)Fの原審証言も、その内容がパッキーカード変造の機械の完成時期、完成台数、機種、形状などの点で、Aの証言とはくいちがつていることなどからして、信用性に欠けるものであることは明らかであり、これまた、被告人と本件犯行との結びつきを証明するに足りるものではないというべきである、(6)Gの証言も、平成三年八月ころ、Fや被告人とともに池袋の第一ホテルなどを転転として、そこでFにパッキーカード変造の機械の開発にあたらせた旨の供述は、右のような場所を転転とするということは機械の開発のためにきわめて非効率的なやり方という他はなく、不合理、不自然というべきであるし、現にFはこれに沿うような供述を全くしていないことに徴し、信用できないものというべきであること、Iの手許から右機械の開発資金として合計四〇〇〇万円の金が出て、Jがそのうち一三〇〇万円をピンハネし、Gも若干のピンハネをし、被告人の手許へはその余のものが渡つたにすぎない旨の供述も、被告人から最低五〇〇〇万円の開発資金が要求されていた旨のGの供述と対比するとき、不合理、不自然なものといわざるをえないこと、総じてGの供述するところは、まことに不明瞭であつて、自分は変造パッキーカードは使用していないなどと自己に不利益なことはすべて否定するという不自然な点が少なくないことなどの点からして、そもそも信用性に欠けるものといわざるをえないが、仮に同人の証言に信用できる部分が含まれているとしても、同人は被告人から受取つた五台の機械にはパッキーカードを変造する能力がなかつたと供述しているのであり、いずれにせよ、同人の証言も、被告人と本件犯行とを結びつけるに足りるものではないといわざるをえない、(7)被告人方から押収された機械については、パッキーカードを変造する能力を有するものであることは、全く証明されていないし、Gの許から任意提出された機械についても、事情は全く同じであつて、これらの証拠も被告人と本件犯行との結びつきを毫も推認させるものではない、などと主張する。

まず、(1)の主張についていえば、Bの証言中被告人との毛皮取引に関する供述部分は、毛皮取引の状況のみならず、その代金支払いのために被告人から振り出された手形が不渡りとなつた経緯やこれらの手形のうち二枚を暴力団関係者に割引いてもらつていたためにその後民事訴訟にまでいたつた経緯などをきわめて明確に具体的かつ詳細に述べたものであつて、決して所論がいうような、あいまいでとらえどころのない供述ではないうえ、弁護人の入念な反対尋問に対しても悪びれることなく明快に答えていて自己矛盾も全くないことなどに照らして、十分に信用できるものと認められるのである。これに反し、被告人の知合いと称する男から連絡を受けて上京し、その男に会つてパッキーカード変造の方法につき説明を受けた旨の供述部分は、その相手の男の顔も名前も知らないなどと甚だ不自然、不合理な弁解をしていることや、当時このパッキーカード変造機械製作の過程にはいろいろな暴力団関係者が介在していたことが関係者の供述などからも窺われることなどに照らすとき、明らかに後難をおそれるなどの理由から、その相手の氏名をはじめ事実の一部を秘匿しているものと認められるのであるが、その後の事実関係の流れからすると、少なくとも、当時被告人の周辺にいた人物からの連絡を受けて上京し、その人物からパッキーカード変造の方法につき説明を受けたとのその骨格部分に関するかぎりは、十分に信用できるものと思料されるのである。

なお、Bの証言中他の関係者の供述とのくいちがいを指摘する所論についていえば、このうちBの証言とAの証言とのくいちがいについては、すでに前述したとおりであるし、Bの証言とDの証言との間、及びBの証言とEの検察官に対する供述(Eの証言中同人の検察官に対する供述とくいちがう部分が信用できないものであることは、後述のとおりである。)との間には、この点についてはみるべきくいちがいは存在しないのであるから、所論は採用できないというべきである。

Bの証言は、被告人の知合いの男云云の供述部分が全面的に信を措きえないことは前述のとおりであるが、その余の供述部分は、その内容がD、Eらの供述と大筋において合致していることなどに照らして信用できるものと認められるのであり、右主張は採用できない。

(2)の主張についていえば、確かにDは、本件パッキーカードを変造する機械を作つたのはAであつて被告人は無関係であると思つていたなどと被告人の本件犯行への関与を否定する趣旨の供述をしていることは所論指摘のとおりであるが、Dの右供述は、A及びBの各供述ならびにEの捜査段階における供述などとくいちがつているばかりか、D自身の池袋のロイヤルホテルで被告人からAを紹介され、Aにパッキーカード変造を担当させる旨云われたとの供述とも明らかに矛盾していることに照らして、Dの証言中所論に沿う供述部分は信用できないものというべきであるから、右主張は採用できない。

次に、(3)の主張についていえば、Eの原審の出張尋問における所論に沿う供述は、都合の悪い尋問に対しては、「忘れました。」「記憶にありません。」と答えたり、答えに窮して絶句している個所が少なからず散見されるうえ、同人が被告人の姓を知つた経緯を合理的に説明できていないことや、同人が被告人やAとともに食事をしたことがあつたかどうかという点についても、一方ではこれを肯定しながら、他方ではこれを否定するという不可解な自己矛盾を含んでいること、同人が捜査段階の自分の供述とのくいちがいを指摘され、その理由を問いだたされた際に納得のできるような何らの説明をなしえていないばかりか、答えに窮したあげく、投げやりに「調書にそう書いてあるんでしたら、そうじやないですか。」などと供述していることなどに照らして、すでに判決を受けているAにすべてを押しかぶせて被告人を庇うとともに、自らも執行猶予期間中であるところから己の関与についてもできるかぎりこれを局限した供述をしようとの意図の下になされた、明らかに虚偽の供述と認めざるをえない。これに反し、同人の検察官に対する供述は、その内容が大筋で他の関係者の供述と符合していて、己にとつて不利益な事項についても包み隠さず述べた、不自然な点が全くないものであることや、同人自身が原審段階においてこの捜査段階の供述につき弁解するところが前述のように全く弁解としての体を成していないことなどに照らして、信用性を肯認できるものというべきである。要するに、(3)の主張は、信用性を欠く同人の原審段階の供述に依拠するものであり、採用のかぎりではない。

(4)の主張についていえば、Hの原審証言は、被告人の本件犯行への関与にかかわる尋問には、言を左右にして問いをそらそうとし、さらに追及されると曖昧きわまりない供述に終始していること、捜査段階での己の供述についても、その任意性信用性に疑いを持たしめるような事情については何らの供述をしていないばかりか、捜査段階での己の供述はおおむね記憶どおり述べたものである旨供述し、また、捜査段階での己の供述と原審段階での己の供述との間のくいちがいについても納得のできるような説明をなしえていないことなどを総合するとき、所論指摘のような同人と被告人との貸借関係などを考慮しても、同人が本件への己の関与をできるかぎり局限し、かつ曖昧にしたいとの意図及び被告人にとつて決定的に不利益な内容の供述を回避したいとの意図が濃厚に窺われるものであり、信用性に欠けたものと認めざるをえない。これに反し、同人の検察官に対する供述は、F及びGの各供述とも大筋においてよく符合していて、客観的な事実関係の流れにもよく沿つたものであり、自己に不利益な事項についても、明確に供述していて、包み隠したり歪曲したりしているという疑いをさしはさむ余地が全くないものであることなどに照らして、大筋においては、十分に信用できるものであるというべきである。

弁護人らは、前述のように見てもいないパッキーカード変造の機械製作のために八一〇万円もの大金を投ずる筈はないとか、同人が検察官に対しては自己に対する処罰を回避せんがためことさらに検察官に迎合して虚偽の供述をしたものである旨主張するのであるが、同人の検察官に対する供述によれば、当時被告人やGがこの機械が完成すれば、一台あたり二〇〇〇万円ないし三〇〇〇万円で売れる旨再三自信ありげにHに述べて、その開発資金の提供を求めてきたというのであり、現に被告人らはその直前にテレホンカードを同様の仕組みで変造する機械を完成して儲けたことがあり、このことは、Hも被告人やGから聞いていたというのであるから、Hが、このパッキーカード変造の機械が間もなく完成するであろうし、その場合には多額の利益が見込まれるであろうとの見通しのもとに、自らもその利益の配分にあずかるべくその開発資金として八一〇万円を提供したということは、まことに自然な成り行きといわなければならず、いささかも不合理、不自然とはいえない。

また、Hは、本件が発覚した後警察の追及をおそれて逃げ回つていたが、逃げきれないと思つて自らの意思で警察に出頭したうえ、検察官に対して右のように供述しているのであり、同人のこの警察への出頭の経過からすれば、同人は、同人自身が検察官に対して述べているように、自らが刑責を追及されることになるとしても、やむをえないとの心情から、いさぎよく事実関係につきすべてをありのままに供述しているものと認められるのであつて、決して所論のような心情の下に検察官に対して供述しているわけではないことは明白であるといわなければならず、所論はいずれも排斥を免れない。(4)の主張はすべて採用できない。

次に、(5)の主張について判断するに、証人Aの証言と証人Fの証言との間には、パッキーカード変造の機械について、その完成時期、台数、機種、形状などの点でくいちがいがみられることは所論指摘のとおりというべきであるが、このうち完成時期については、Aの証言こそ信用できるものであつて、Fの証言が不正確なものであると認められることは、すでに前述したところであるし、その台数、機種、形状に関するくいちがいについていえば、Fの証言に、Gの証言及びHの検察官に対する供述などを総合するとき、当時、Fは、被告人を経てAのもとにきた機械のみを製造していたわけではなく、その他にも多数の同種の機械を製作していて、これらは被告人の手を経て暴力団関係者に流れていることが窺われるのであつて、こうした事情や、Fの証言がこれらの点でGの証言ともくいちがつていることにかんがみるとき、Fの証言には、Aの手許にきたものについての記憶と暴力団関係者に流れたものについての記憶との間に混乱があり、その結果、これらの点でも、その完成時期についてと同様の他の関係者の供述とくいちがう不正確な供述となつているものと認められるのである。Fの証言には、このように少なからぬ点についての不正確な供述が含まれており、また、Fの右証言は、Gの証言と対比するとき被告人の手を経て暴力団関係者に流れたものについては触れず、被告人の手を経てAのもとにきた機械のみに局限して供述することにより、本件につき己の果たした役割をなるべく小さいものであつたようにみせようとする意図が濃厚に窺われるものであり、その意味では信用性にやや欠けるものというべきであるが、少なくとも、同人が積極的に供述しているところの骨格部分は信用できるものと認められるのであり、同人の証言もAの証言を補強するに足るものといわなければならない。右主張は採用できない。

さらに、(6)(7)の主張についていえば、GがFや被告人とともにホテルを転転としてFに機械の開発をさせていたと供述しているところは、Gが、その開発資金として、暴力団関係者から多額の金を引き出しており、自らもこれに多額の出捐をしていたにもかかわらず、Fの機械の開発がなかなか当初の見込み通りにはゆかず、苦慮していたという当時の事情からすれば、Fを督促して一日も早く機械を完成させるというGの目的に照らしても、また、多額の金を出している右暴力団関係者を納得させるという観点からしても、まことに合理的な対応であつたというべく、加えて、機械の開発のためには、開発中の機械でパッキーカードの変造を試み、このカードをパチンコ店で実際に使つてみて変造が成功したかどうかをチェックする作業をくりかえし行う必要があり、そのためには機械開発をパッキーカードの使えるパチンコ店の近くで行う必要があつたことも右のようにホテルに泊まり込み、転転とした理由の一つである旨Gが供述するところも、十分に首肯できるところというべきであり、したがつて、右措置が非効率的なやり方であつてきわめて不自然であるとする所論は採用できない(Fの証言中にこのGの供述に沿う供述がない点は、前述のように、Fの証言が、できるかぎり己の役割を局限した形で供述しようとの意図にもとづくものである以上、むしろ当然というべきであり、Gのこの点に関する供述の信用性に何らの影響を及ぼすものではないことはいうまでもない。)。また、JやGへのピンハネに関する所論も、事柄の性格からして、そもそも被告人が当初要求していた金額もかなり鯖をよんだ金額と思料されるうえ、実際に、機械の開発にどれだけの費用を要するかはやつてみなければわからない、きわめて不確定要素の多い事柄と思料されることや、JやGも、いずれもあくどい金儲けを企図してこの件にかかわつてきた者であることに徴するとき、JやGがこのようなピンハネをしたことは、むしろ自然の成り行きというべきであつて、いささかも不自然、不合理ではないというべきであるから、採用の限りではない。また、機械開発の段階を別にすれば、変造したパッキーカードはG自身は使用していない旨Gが供述している点も、G自身が供述するように、同人が機械を売却することによる多額の利得の配分にあずかろうとして被告人らに接近したものであつて、この機械を使つて変造したパッキーカードを使用してのわずかの利得を得ようとして加功したものではない以上、これまた、当然のことというべく、いささかも不自然とはいえない。

Gの証言は、全体としても、きわめて具体的、かつ、詳細なもので不自然な点は窺われず、FやHの各証言と対比するとき、己に不利益な事項をも含めてすべてをありのままに供述しようとの意図がより鮮明に認められるものであり、その後、本件捜査を担当した池袋警察署に同人から任意提出された機械など、同人の供述するところに沿う客観的な証拠もあつて、これによりその信用性がさらに担保されていることに徴すれば、信用性は十分に認められるものというべきである(なお、同人が池袋警察署に提出した右機械は、同人の供述によれば、被告人から受取つてJに引き渡したがその後Jからつきかえされたものであると認められるところ、この機械がパッキーカードを変造する能力を備えているとの証明がなされていないことは、所論指摘のとおりではあるけれども、G自身証言中でJから返された後作動させてみたがパッキーカードを変造する能力はなかつたと供述している以上、この点も当然というべきであつて、何ら異とするに足りないところというべきである。右機械が当初からパッキーカード変造の能力を欠くものであつたのか、当初はパッキーカード変造の能力を備えていたが、その後の故障で右能力を失うにいたつたものであるのかは不明であるけれども、そのいずれにせよ、そのことの故に被告人からAの方に渡つていた機械もパッキーカードを変造する能力を欠くものであつたと直ちに推認できないことはいうまでもないし、右機械が、少なくともパッキーカード様のものに磁気データを記録することを意図して作成されたものであることが関係証拠によつて証明されている以上、これまた、被告人と本件とを結びつける一つの証左に他ならないことも明らかであるといわなければならない。)。

次に、所論指摘の被告人方から押収された機械についていえば、Fの証言によれば、同人の手許において製造中の半製品であり、本件についての警察の捜査が開始されたことを知つた被告人に要求され隠匿のため被告人に引渡されていたものに他ならないことは明らかであるが、これによれば、右機械がパッキーカードを変造する能力を備えていないこともむしろ当然というべく、右の経緯に、右機械がパッキーカードを挿入する機能を備えていることや右機械と同時に被告人方から押収されたものの中にテレホンカード変造の機械を作るための部品と目されるものが多数含まれていることなどを併せ考えるとき、これまた、被告人と本件とを結びつける一つの証左たるを失わないというべきである。(6)(7)の主張は、すべて排斥を免れない。

なお、被告人の供述につき付言すると、被告人は、捜査段階から当審にいたるまで一貫して本件への関与を全面的に否定する供述に終始しているのであるが、被告人のこれらの供述は、Aをはじめとする多くの関係者の供述と真向うから対立するものであるばかりか、関係証拠によつて被告人自身も変造パッキーカードを使用している事実がすでに明白となつているにもかかわらず、被告人が一度もこれを使用したことがない旨述べていることや、被告人の手許から押収された機械や部品が、関係証拠によつて明らかにプリペイドカードの変造を企図したものと認められるにもかかわらず、変造されにくいプリペイドカードの開発を手がけていた旨これと矛盾する供述をしていることなどに照らして、弁解としては完全に破綻しているところというべきであつて、アリバイ主張ともとれる供述を含めて信用性を全く欠くものといわなければならない(なお、当審の出張尋問における証人Kの証言についても付言するに、同証人の証言中被告人の否認供述に沿うかのような供述部分も、被告人の右供述と同様、A、B、Gらの前掲各供述に照らして到底信用できないものというべきである。)。

したがつて、弁護人のその余の主張につき按ずるまでもなく、被告人が本件犯行に首謀者として関与していたことは明らかであつて、原判決には所論のような事実の誤認はない。所論は採用できず、論旨は理由がない。

第二  法令適用の誤りをいう控訴趣意について

所論は、パッキーカードは刑法一六二条一項の有価証券には該当しないし、仮に該当するとしても、本件のような態様のパッキーカードの改ざんは同条の変造にはあたらない、パッキーカードはパッキーカードサンドに挿入して使用されるものであつて、人に対する行使ということはありえないものであるから、仮にパッキーカードが有価証券に該るとしても、同条にいう行使の目的というものもありえないことに帰する、仮に本件のようなパッキーカードの改ざんが同条の有価証券変造罪に該るとしても、本件でのAからEへの改ざんされたパッキーカードの交付は、変造有価証券行使の共謀者間の授受にすぎないから同法一六三条一項の変造有価証券交付罪は成立しない、したがつて、本件につき有価証券変造罪と変造有価証券交付罪の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな多くの法令適用の誤りがあるというのである。

しかしながら、本件パッキーカードが刑法一六二条一項の有価証券に該当すること、本件におけるようなパッキーカードの改ざんが同条の変造にあたること、パッキーカードのパッキーカードサンドに挿入してなされる使用も同条の行使にあたること、及び、AからEへの本件変造パッキーカードの交付が、仮に変造有価証券行使の共謀者間の授受に該るとしても、Aや被告人が変造有価証券行使罪で訴追されている場合は格別、単に変造有価証券交付罪としての訴因で起訴されている本件のような場合においては、変造有価証券交付罪が成立すると解すべきことは、いずれも原判決が「弁護人の主張に対する判断」の項で具体的かつ適切に説示しているとおり明らかであつて、弁護人らがこれらの点につきるる主張を重ねるところは、すべて従来の確立した判例の見解とは全く異なる独自の見解にすぎず、いずれも採用できない。原判決には所論のような法令適用の誤りは全くなく、論旨はすべて理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、刑法二一条を適用して当審における未決勾留日数中二五〇日を原判決の刑に算入し、当審における訴訟費用については、刑訴法一八一条一項但書によりこれを被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 日比幹夫 裁判官 松尾昭一)

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